自宅から参加するWEB会議が当たり前になってきました。WEB会議では、予め設定した議題について、主担当者が予め準備した内容を参加者に説明し、参加者が主担当者に質問を行う、というプレゼン型の会議には向いています(大半の会議はこれで済みます)。しかし、自由に討議を行い有益な議論の結果を得る、というのは、WEB会議では難しいと思われます。この発明は、議論においてなされる発言の位置付けを明確化し、議論における合意形成を支援するシステムの発明です(特開2020-086853、富士ゼロックス)。
WEB会議だけでなく対面の会議においても、意味のある議論を行うのは難しいものです。例えば、会社の会議に参加したとき、テレビで国会中継や討論番組を見ているとき、以下の経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。
このようなことに違和感を感じながらも、どこに問題があるのか分からず、イライラしてしまうこともあるかもしれません。それでは、具体的にどのようにすれば生産性のある議論にすることができるのでしょうか?
この発明は、議論においてなされる発言の位置付けを明確化し、議論における合意形成を支援するシステムの発明です。
図14は会議支援システムの動作を表すフローチャートです。
議論の型とは何でしょうか。生産性のある議論をするためには、スポーツと同じように、必要な道具(議論の型)を用いて、参加者が共通のルールに従って議論を進めていく必要があります。これらの基準があることによって、どういう議論が有効で、どういう議論が違反なのかを正しく評価できます。
図5は、トゥールミンモデルの構造を示す図です。トゥールミンモデルはイギリスの科学哲学者トゥールミンによって提唱された議論モデルです。
まず、論証の基本形として、
主張(Claim)、
根拠(Data)、
論拠(Warrant)
からなる枠組みを示します。
そのうえで、議論の蓋然性(不確かさ)を考慮し、信憑性を高めるために、
裏づけ(Backing)、
反証(Rebuttal)、
限定詞(Qualifier)
の使用を提案しています。
図6は、ある「主張」に対する議論をトゥールミンモデルに即して分析した例を示します。
この例では、「チームAは来季優勝する」という「主張A」に対する議論の例です。
この「主張A」に関して、提示された発言をトゥールミンモデルに従って整理します。
図7は、図6に示した議論において、各発言に対して設定された特性値(重要度および合意度)を示しています。
図7では、重要度は相対的な数値で表され、数値が大きい方が重要な要素であり、合意度は「0」(合意しない)または「1」(合意する)の何れかが設定されています。
図15は弁証法に基づく議論の型の例を示す図です。
弁証法とは、互いに矛盾して対立するかに見える二つのものに対して、どちらかを否定したり割り切ったりするのではなく、両者を肯定して統合し、より良い案を生み出しそうとすることをいいます。
このように、議論の型を用いることで、共通のルールに則って議論を進めていくことによって、生産性のある議論を行うことができるようになります。
トゥールミンモデルでは、何かを主張(Claim)したときには、その主張に至った根拠(Data)と論拠(Warrant)を挙げます。その上で、反対する場合には3つの方法(反駁、質疑、反論)を用います。相手の主張(Claim)自体に反対することは禁止です。これらを意識するだけでも、議論の生産性が高まるのではないでしょうか。
弁証法は、ビジネスにおいて積極的に活用したい技術です。お互いの意見を否定しあうだけでは、解決策にはつながりません。そのようなときは弁証法のプロセスを思い出して、思考を深めてみると良いと思います。
ちなみに、特許制度において、出願人が特許を主張する「特許請求の範囲」のことを、英語で「Claims」と呼びます。日本の特許法の場合は、特許を認められるためには、新規性と進歩性が否定されないことが要件になります。出願人は特許を主張するとともに、自分の出願が新規性と進歩性を満たすことを示すために、先行特許文献を提示するのです。